生産国(生産地)で収穫・精製されたコーヒー豆(生豆)は、消費国(消費地)に輸出されて焙煎されます。
その焙煎したコーヒー豆を使って淹れた飲み物が、私たちが毎日飲んでいるコーヒーです。
昭和のコーヒー研究の第一人者の伊藤博さんは、「珈琲を科学する(時事通信社)」の中で、次のように語っています。
コーヒー生豆、焙煎コーヒー豆という固体の原料から、液体のコーヒーへと品質レベルを維持しながら引き継いで行く仕上げの技術がコーヒー成分の抽出作業です。
湯(水)を使って固体の焙煎コーヒー豆粉から、コーヒー成分を湯(水)の中に移動させるのが、コーヒーの抽出だと考えています。
飲み物として提供される1杯のコーヒーの98%~99%は湯(水)で、コーヒー成分は1~2パーセントくらいです。
そのコーヒー成分には、水に溶けている成分から、溶けないで水の中に分散しているだけの成分まで、様々な成分があるようです。
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【目次】
- 【1】水溶液
- 【2】コロイド溶液
- 【3】硬水と軟水
- 【4】水と品質
- 【5】抽出に使う水
- 【6】抽出と湯の温度
- 【7】美味しい水
- 【8】コーヒーの抽出とは
- 【9】コーヒーの抽出原理
- 【10】コーヒー抽出の基準とコツ
- 【11】抽出器具の材質
- 【12】抽出温度と抽出時間
- 【13】お茶とコーヒー
- 【14】アメリカンコーヒー
【1】水溶液
砂糖分子はものすごく小さいので、目で見ることができません。
しかし、砂糖は、たくさんの砂糖分子が寄り集まっている集合体ですから、目で見ることができます。
その砂糖を水の中に入れると、集合体が分散してしまって小さな分子になってしまうので、砂糖を入れた水は、最終的に透明な砂糖水になります。
砂糖のように、水などの液体に溶けている物質を溶質、水のように、溶質を溶かす液体を溶媒と呼んでいます。
そして、水を溶媒として使っている溶液を、水溶液と呼んでいます。
【2】コロイド溶液
砂糖水溶液とコーヒー抽出液に強い光を当て、横から観察すると、コーヒー抽出液には光の通路が見えますが、砂糖水では何も見えません。
この光の通路が見える現象を、チンダル現象と呼んでいます>
砂糖の粒子は小さいので水に溶けていますが、コーヒー抽出液の場合、水に溶けない大きさの粒子が水の中に分散しています。
その水の中に分散している粒子が光を散乱するので、光の通路が見えるわけです。
コーヒー抽出液のように、チンダル現象を起こす溶液に散らばっている粒子のことを、コロイド粒子と呼んでいます。
そして、コーヒー抽出液のように、コロイド粒子が分散している溶液を、コロイド溶液と呼んでいます。
【3】硬水と軟水
水には、カルシウムや鉄、マグネシウムなどの無機質(ミネラル)が溶け込んでいます。
そして、ミネラルがたくさん溶けている水を硬水、少ししか溶けていない水を軟水と呼んでいます。
軟水で淹れたコーヒーはマイルドなコーヒーとなって、硬水で淹れたコーヒーは苦味の強いコーヒーになると言われています。
煎り具合が浅めのコーヒーを軟水で淹れれば、煎り具合が浅くなればなるほど酸味が強くなると言われています。
硬水で淹れたコーヒーは、煎り具合が浅くなっても、それほど酸度が上昇しないと言われています。
【4】水と品質
美味しい水には、微量のミネラル(無機成分)がバランスよく含まれています。
また、適当な量の炭酸ガス(二酸化炭素)や酸素が含まれていることも必要です。
微量のミネラルは水に味をあたえ、炭酸ガスは水に清涼感をあたえます。
美味しい水には、適度な冷たさも必要です。
5度から10度C前後の温度の水が、いちばん美味しいといわれています。
コーヒーという飲み物は、その約99%が水で、残りの1%~1.5%がコーヒーの成分だと言われています。
ですから、抽出に使用する水の質が大切だということになります。
【5】抽出に使う水
1杯のコーヒーの1%~1.5%が、コーヒーの成分だと言われています。
ですから、抽出に使用する水の質が大切だということになります。
『序説珈琲学』には、次のように書いてあります。
コーヒーという飲物は、水分を飛ばして残った固形物の量をはかると、100ml当たり1.0~1.5gですから、ほぼ99%は水でできている
水質で問題になるのは、塩素・鉄・銅です。
鉄は、コーヒーの成分(クロロゲン酸など)と化学反応を起こします。
ミルクを入れたコーヒーに鉄を加えると、液体が緑色に変わって、苦いコーヒーになってしまいます。
銅は、鉄のようにコーヒーの色を変化させることはありません。
しかし、コーヒーのフレーバーを劣化させます。
水道水には、塩素(クロール)が含まれています。
含まれているクロールの量が多すぎると、コーヒーのフレーバーに悪影響が出ます。
クロールを取り除くためには、湯が沸騰してから後も、しばらくグラグラ煮るのがよいみたいです。
【6】抽出と湯の温度
コーヒー成分の抽出に使う水は、鉄分を含まない、できるだけ純水に近い軟水で、酸素と二酸化炭素を適度に含んでいる水が適していると、筆者(年老いた珈琲豆焙煎屋)は考えています。
水の沸かし方によっては、コーヒーの味を変化させることがあります。
ぐらぐらと沸騰させた湯や古い湯の場合、コーヒーの成分を過剰に抽出してしまいます。
反対に、沸騰前の温度の低い湯(80度ぐらいまでの湯)の場合、コーヒー成分が抽出不足になりがちです。
コーヒー成分の抽出には、沸騰した瞬間の湯(グラグラと煮える寸前の湯)が、もっとも適していると考えられます。
沸騰した瞬間の湯が、コーヒーの成分を抽出するためにコーヒー粉と接触する時点では、90度くらいになっています。
また、湯(水)に含まれている二酸化炭素や酸素の量と、コーヒー粉に含まれている二酸化炭素や酸素の量が理想的な状態になっているので、コーヒー成分を最高の状態で抽出することができると考えています。
【7】美味しい水
美味しい水の条件、それは、水の中にバランス良くミネラル成分が含まれている水で、水の温度が10度前後から13度くらいの水だと思っています。
その他、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)と酸素が適量含まれていて、温度が10度前後であることだと思っています。
山間部の渓流水が美味しいのは、この条件を全て満たしているからだと思います。
コーヒーの重要成分は、『水』だと言われています。
ですから、使用する水は、重要な役割を演じていると思っています。
ちなみに、筆者(年老いた珈琲豆焙煎屋)は、コーヒーの風味を生かす水は軟水だと思い込んでいますが、コーヒーを淹れるのに軟水しか使った事が無いからなのかもしれません。
【8】コーヒーの抽出とは
焙煎したコーヒー豆を粉砕して、その粉に含まれているコーヒー成分を水に溶解させる操作がコーヒーの抽出だと思っています。
焙煎コーヒー豆に含まれている多くの成分の中から、良質な成分を引き出し、嫌味な成分をできるだけ抑えるのが抽出の妙技だと言われています。
一般的に、コーヒーの成分は、湯の温度が高くなれば溶けやすくなります。
そして、短時間で溶け出す成分ほど、良質の成分を多く含んでいるわけですから、できるだけ短時間に抽出した方が、余分な成分が溶け出さないので美味しいコーヒーになると思っています。
また、湯とコーヒー粉の接触状態の違いによっても、抽出成分が違ってきます。
【9】コーヒーの抽出原理
20世紀の話です。
コーヒーを抽出する器具として色々な器具が存在していますが、その抽出原理は、透過法・浸漬法(シンシホウ)・煮出法の3種類に集約されると言われていました。
21世紀になってからは、煮出法は、浸漬法の1つの形だと考えられていて、コーヒーの抽出原理は、透過法と浸漬法の2種類だと言われています。
湯を少しずつコーヒー粉にしみ込ませながら、そのコーヒー粉やフィルターで、徐々にろ過していく抽出方法が透過法です。
ドリップコーヒーやエスプレッソコーヒーの抽出原理は、透過法です。
お湯と粉を一緒に混ぜ合わせて、ある時間が経過してからろ過する抽出方法が浸漬法です。
サイフォンやフレンチプレスの抽出原理は、浸漬法です。
トルココーヒーやボイリングコーヒーのように、コーヒー粉と水を一緒にして、火で加熱して、そのまま飲むか、ろ過して飲む抽出方法は、その昔、「煮出し法」という1つの抽出原理に分類されていましたが、今は、浸漬法に分類されています。
【10】コーヒー抽出の基準とコツ
1960年代から、抽出する成分は、粉の重量の18~22%(普通18%)に抑え、その時、溶け出してくる成分の抽出液中の濃度は、1.0~1.5%が、いちばん美味しいコーヒーが出来上がると言われています。
抽出のコツは、コーヒー豆(焙煎豆)の美味しい成分を、適当量だけ引き出すことにつきると言われています。
そのためには、コーヒー豆の粉砕、抽出に使う水、コーヒー粉と水の割合、抽出するときの水の温度、抽出にかかる時間などに、細やかな配慮が必要になるとされています。
【11】抽出器具の材質
抽出器具ですが、大体はガラス・プラスチック・ステンレス・スチール・陶磁器で作られています。
銅や鉄・合金・炭素鋼・アルミニウムは、コーヒーのフレーバーに悪影響を与えます。
コーヒーの抽出液に鉄などの金属が加わると、緑色に変色して、苦くて重たい味になってしまいます。
【12】抽出温度と抽出時間
コーヒーの抽出には、沸騰させたお湯を少しの時間だけ冷ました熱湯を使用するのが良いと言われています。
理由は、コーヒーの成分は、湯の温度が高いほど溶けやすいからです。
湯の温度が高いと、短時間でコーヒー成分を抽出してしまいます。
反対に、湯の温度が低ければ、溶け出すコーヒー成分量が減少します。
コーヒー抽出液中に溶け出すコーヒー成分量が同じでも、抽出の温度や時間が異なると、抽出されるコーヒー成分に違いが出てくるので香味も異なって来ると思っています。
【13】お茶とコーヒー
お茶もコーヒーも、その成分の抽出原理は同じだと思っています。
どちらも、有効成分を効率よく抽出するためには、水の温度と抽出時間が重要になって来ます。
お茶の成分のうち、湯の温度を控えめにして、ゆっくりと時間をかけて抽出するのがテアニンで、湯の温度が低すぎると抽出濃度が弱くなるのがカテキンです。
ですから、美味しいお茶は、それらが上手く調和した状態で抽出されたお茶だと言われています。
コーヒーの場合、成分の溶解度はお茶よりも低いので、湯の温度は、お茶の抽出よりも高めに設定する必要があります。
お茶もコーヒーも、中手つ時間が長くなると、重たい味になってしまいます。
【14】アメリカンコーヒー
アメリカンコーヒーについて、2つの話を引用します。
1つ目は、『銀座でコーヒー50年』からです。
2つ目は、『序説珈琲学』からです。
『銀座でコーヒー50年』からです。
アメリカ独立戦争のきっかけとなった「ボストン茶会事件」、この事件を境に、アメリカでは、紅茶に代ってコーヒーが飲まれるようになりました。
紅茶の代用ですから、コーヒー豆を浅く焙煎して、色の薄いコーヒーを飲んだわけです。
ですから、浅く焙煎したコーヒー豆で淹れる、色の薄いコーヒーを「アメリカンコーヒー」と呼んでいます。
『序説珈琲学』からです。
アメリカ中西部の水は、硬度が高くてアルカリ性の強い水ですから、この水の質に合わせたコーヒーということで、アメリカンと称する、浅く焙煎した色の薄いコーヒーが飲まれています。
浅く焙煎して、コーヒーの酸味を強く残して、アルカリ性の水の影響を軽くしようとしたわけです。
(※)このエントリー記事の拡大版「令和版、コーヒーの基礎知識、第12章水とコーヒーの抽出」を、珈琲ブログにエントリーしています。(有料記事です)