コーヒー生豆は農産物ですから、その品質は、生産地、生産者、天候、収穫時期などの自然条件に左右されます。
ですから、コーヒー生豆の品質が、常に一定ということは有り得ません。
ということで、一定の香味を維持するために、いろいろと性格の異なるコーヒー豆を混ぜ合わせて焙煎コーヒー豆の香味をコントロールして、常に、コーヒーの香味を一定水準に保持させることがブレンドの一番の目的だと、昭和の時代に発刊された珈琲関係の書物には書いてあります。
ちなみに、現在(2016年)の筆者はスペシャリティーコーヒー中心の商売を営んでいるので、当然のことながら、コーヒーの香味を一定水準に保つことにはこだわっていません。
【目次】
- 【1】スペシャルティーコーヒー、シングルオリジン
- 【2】ストレートコーヒー
- 【3】ブレンドコーヒー
- 【4】ブレンドの目的
- 【5】混合焙煎と単品焙煎のブレンド
- 【6】ブレンドの効果
- 【7】コーヒー豆の特性
- 【8】ブレンドの配合例
20世紀と2000年代半ば頃までに発行された珈琲本を参考書として、この記事を書いています。
2023年の感覚では、時代遅れの記述があるかもしれません。
【1】スペシャルティーコーヒー、シングルオリジン
特別で理想的な気候や環境のもとで成長した、欠陥の無いほぼ完璧な香味のコーヒーをスペシャルティーコーヒーと表現しているようです。
スペシャルティーコーヒーの持つ特別な香味は、生産者が特別な努力を繰り返した結果として作り出されたものなのかもしれません。
スペシャルティーコーヒーという言葉は、1974年、サンフランシスコでコーヒー会社を経営しているエルナ・クヌッセン(Erna Knutsen)女史が、「ティー&コーヒートレードジャーナル」の特集記事で使用したのが最初だと、ウィキペディアのSpecialty coffeeは伝えています。
アメリカ・スペシャルティーコーヒー協会は、コーヒー豆のカップ評価を100点満点で80点以上の点数を獲得したコーヒー豆をスペシャルティーコーヒーと呼ぶと規定しています。
そして、スペシャルティーコーヒーの大半は、シングルオリジン(orシングルエステート)と呼ばれる、コーヒー豆の生産地域、生産農園、精製処理方式が明確になっていて、ブレンドされていない焙煎コーヒー豆として流通しています。
「単一の場所」で栽培・収穫されたコーヒー豆を表現するときに使う用語が『シングルオリジン』で、一つの農場で収穫されたコーヒー生豆を、エステートコーヒーと表現しています。
ある農場の特定の畑で収穫されたコーヒー生豆を、マイクロロットコーヒーと表現しています。
このエステートコーヒーとマイクロロットコーヒーを、「single origin coffee/シングルオリジンコーヒー」と表現しているようです。
【2】ストレートコーヒー
生産地で収穫されたコーヒー生豆を単品(単銘柄)で焙煎したコーヒー豆、それをストレートコーヒーと呼んでいるのだと思います。
Tea&Coffee Buyer's Guide の中の Commercial Coffee Chart に掲載されるタイプのコーヒー生豆を焙煎したコーヒー豆を表現する用語だと思っています。
ブルーマウンテン・キューバ・モカマタリ・ブラジル・コロンビア・グアテマラと、生産国名・生産地名・出荷港名などで呼ばれています。
ストレートコーヒー豆は、そのコーヒー豆独自の風味を持っていて、酸味のある豆・苦味のある豆・甘味のある豆・中性的な豆、あるいは香りの高い豆などと表現されたりします。
参考までに、コーヒー生豆取引に従事する人たちのマニュアルとなっているUkers のTea&Coffee Buyer's Guide の中の Commercial Coffee Chart には生産国名、積み出し港、その港から積み出されるコーヒー生豆の取り引き上の名称、コーヒー生豆の形状、フレーバーなどが記載されているそうです。
広瀬幸雄さんの著作、「もっと知りたいコーヒー学」には、「ストレートコーヒー豆は国(生産地)別の味を楽しむもの。求める味はその国(生産地)の特徴が出ていれば良い。焙煎する人も抽出する人も、万人が求めているその国(生産地)のコーヒー豆が持つ癖、個性を頭に入れて仕上げる。その豆だけが持つ純粋さを求めるもの」と書いてあります。
【3】ブレンドコーヒー
モカ・ブラジル・コロンビアといった単品(ストレート)銘柄のコーヒー豆を、2種類以上混ぜ合わせたものをブレンドコーヒーと表現しています。
㈶科学技術教育協会発行の『コーヒーの科学』によると、コーヒーには、ブルーマウンテンのように単一であっても、香り、酸味、苦味、コクなどのバランスが取れているものもありますが、一般的には、かなりくせの強い、個性的な味覚を持つものが多い。
こうしたコーヒーの個性をストレートで味合うのも一つの楽しみ方ですが、豊かな個性のコーヒーを複数組み合わせて、より素晴らしいコーヒーを創作して味わうのも特別な楽しみ方だと書いてあります。
『序説珈琲学』には、ブレンドとは、単品(ストレート豆)では物足りないと感じるフレーバーを、性格の異なった銘柄のコーヒー豆を混ぜ合わせて、より完全なバランスのよいフレーバーを作り出したり、一部を強調した特徴のある印象的なフレーバーを作り出すことだと書いてあります。
広瀬幸雄さんの著作、「もっと知りたいコーヒー学」には、焙煎、抽出という加工と共に、ブレンドは非常に魅力的な作業であろう。
単品(ストレート)のコーヒー豆は各々の生産地の特徴ある味や香りを持っていて、それらは焙煎や抽出という人の手によって味や香りの幅が広げられるが、ブレンドという手法で違った産地のコーヒー豆を加えることによって、より完全なバランスの良いフレーバーを創り出して、ある味や香りを強調したりすることもできると書いてあります。
珈琲に関する知識・経験と感覚を総動員して、新しい珈琲を創り出すという楽しみが、コーヒー豆のブレンド作業には存在しているのだと思います。
コーヒー豆の特性を生かしながら、お互いの持たないところを補いあって、ストレートコーヒー豆の持つ香味を超えたバランスの良い豊潤な香味を創造することが、ブレンドの醍醐味なのだと思います。
ただし、シングルオリジンのスペシャリティータイプのコーヒー豆のように、品質が安定していて、それだけで満足感を味わえるコーヒー豆なら、あえてブレンドする必要が無いと思っています。
また、ストレートコーヒー豆あってのブレンドコーヒーですから、ストレートコーヒー豆の特徴を把握して、それに基づいてブレンドを組み立てるべきだとも考えられています。
【4】ブレンドの目的
現在、数多くの種類のコーヒー生豆が生産国から輸入されていて、それらのコーヒー生豆を入手することができます。
単品(ストレート)銘柄で充分に満足のできる安定したコーヒー生豆もあれば、品質や価格の不安定なコーヒー生豆や、同じ生産地、生産者から出荷されるコーヒー生豆であっても、良い時と悪い時の格差が大きいコーヒー生豆など、種々雑多なコーヒー生豆が流通しています。
コーヒー豆自家焙煎店の立場でブレンドの目的を考える場合、自店独自の個性を出すためという目的と、経済的な目的(価格と品質の安定化)の2つの面があると思っています。
比較的に価格の安いコーヒー豆であっても、何種類かのストレートコーヒー豆をブレンドすると、魅力的なコクを持つブレンドコーヒーが出来上がることもあります。
一定の香味を維持するために、いろいろと性格の異なるコーヒー豆を混ぜ合わせて、コーヒー豆の香味をコントロールすることもあります。
また、比較的に消費の遅い高価格のコーヒー豆をブレンドに配合することで、高価格コーヒー豆の回転を良くして廃棄処分を避けることができます。
選別された最高品質のコーヒー豆だけでストレートコーヒー(orシングルオリジンコーヒー)を味合うのが最高の贅沢なのかもしれませんが、最高品質のコーヒー豆は量的に限られている希少品ですから、価格がものすごく高くなります。
そこで、リーズナブルな価格のコーヒー豆をベースとして、価格の高い希少なコーヒー豆も一部混ぜ合わせて、優れた品質を持つブレンドコーヒー豆を適当な価格で提供することも、ブレンドの大きな目的の一つだと考えられています。
自店好みのコーヒーの香味を創り出すのがブレンドコーヒー創りの醍醐味だと思うのですが、コーヒー豆自家焙煎店の場合、どうしても商品(価格や品質の安定)としての性格が優先されます。
制約に縛られることなく、ただひたむきに美味探究に邁進できるのは、自宅で自分流にブレンドコーヒーを楽しんでいる人たちの特権だと思っています。
【5】混合焙煎と単品焙煎のブレンド
ヨーロッパやアメリカでは、おそらく日本でもそうなのだと思いますが、ある一定規模以上のロースターなら、何種類かの銘柄のコーヒー生豆を焙煎前に混ぜ合わせて、それを何日間か保管して、混ぜ合わせたコーヒー生豆を、お互いに馴染ませてから焙煎する方法を採用していると思っています。
このブレンド方法を、混合焙煎(プレミックス焙煎)と呼んでいます。
大量に焙煎する場合や、深く焙煎する場合に適した方法です。
単品焙煎(アフターミックス焙煎)は、それぞれのコーヒー生豆に適した焙煎方法で別々に焙煎した後、その焙煎したコーヒー豆をブレンドする方法です。
日本の自家焙煎店では、この方法が主流です。
単品焙煎(アフターミックス焙煎)については、コーヒー生豆の銘柄が異なれば焙煎の仕方も異なるわけで、また、別々に焙煎しておけば、粒の大きさの異なるコーヒー豆同士のブレンドでも、無理なく馴染ませることができるとする考え方が、日本では一般的になっているのだと思います。
広瀬幸雄さんの著作、「もっと知りたいコーヒー学」には、プレミックス焙煎(混合焙煎)は、加工の省力化に重点が置かれていて、風味に問題がある。
コーヒー豆を精製する方法には、天日で乾燥させる方法や水洗いしてから加工する方法があるわけですが、それを考慮せずにコーヒー生豆の段階でブレンドすると、風味に影響する可能性があると書いてあります。
【6】ブレンドの効果
財団法人・科学技術教育協会発行の『コーヒーの科学』によると、ブレンドの効果として、
(1)配合するコーヒー豆の優れた性質を増やす相乗効果。
(2)すぐれた性質を、お互いに打ち消しあう相殺効果。
(3)単品では現れない、優れた性質を引き出す効果。
の3つをあげています。
さらに、コーヒー豆個々の銘柄、品質の全てを熟知するのはもちろん、それぞれの銘柄の組み合わせ効果についても熟知する必要があるとも書いてあります。
コーヒー豆自家焙煎店は、消費者に良質のブレンドコーヒーを送り届けるためにも、日頃から研究目標や課題意識を抱いている必要があると言われています。
伊藤博さんは「珈琲を科学する/時事通信社」で、以下のような3つの課題をあげています。
(1)「いつもの味」と「より良い味」
いつものブレンドコーヒーの味が変わることなく安定的に保持できるように、たえず素材を吟味して、焙煎状況などを調べ、ブレンド調整を丹念に行うこと。
それと同時に、より良い味のブレンドコーヒーを創作する努力を怠らないこと。
(2)「新しい味」への挑戦
嗜好の多様化に対応できるように、日頃から新しい味のブレンドコーヒー創作の研究を怠らないこと。
例えば、エスプレッソ向けブレンドコーヒー豆やアレンジコーヒー向けブレンドコーヒー豆、料理に合わせたブレンドコーヒー豆、お客さんの好みに合わせるブレンドコーヒー豆などを研究すること。
(3)主配合を生かす技術
通称「モカブレンド」、「キリマンブレンド」、「ブルマンブレンド」などと呼ばれているブレンドコーヒー豆。
モカ、キリマンジャロ、ブルーマウテンなどの主たる銘柄を30%以上使用して、その他のコーヒー豆銘柄をブレンドして、モカやキリマンジャロ、ブルーマウンテンなどの特徴を失うことなく、しかも単品に無い味の深まりを創り出す技術の鍛錬。
【7】コーヒー豆の特性
各銘柄(ストレート)コーヒー豆の欠点を補って、バランスの良い、美味しいコーヒーを作るのがブレンドの目的で、少数のコーヒー豆を活用して無限の広がりをフレーバーに反映するのがブレンドの妙技だと言われています。
そのためには、各銘柄コーヒー豆の特性を知る必要があります。
各国のコーヒー豆の特徴を、大雑把にまとめると以下のとおりです。(昭和の時代のデータですから、あくまで参考です。)
≪酸味を感じるコーヒー≫
モカ、コロンビア、キリマンジャロ、ケニア、ハワイコナ
≪苦味を感じるコーヒー≫
ジャバロブスター、マンデリン
≪甘味を感じるコーヒー≫
ブルーママウンテン、コロンビア、モカ、ドミニカ
≪中庸≫
ブラジル
伊藤博さんは「珈琲を科学する/時事通信社」で、ブレンドの特性・評価について以下のように語ってくれています。
ブレンドの素材は、一級品だけで構成する必要がない。
あるコーヒー豆のクセが突出したり、良さが隠れてしまわないように適材適所で使いわけるのですが、基本的には、欠点の含まない正常なコーヒー豆を使います。
もしも、明らかな劣品が価格調整の目的で混ぜ込まれた場合、味のバランスが悪くなるわけですから、必ず味にしわ寄せが出てきます。
必要だから使うのであって、安いから使うのではないことを意識する必要がある。
【8】ブレンドの配合例
ブレンドの基本は、ブラジルとコロンビア、モカとコロンビアというように異なった性格のコーヒー豆を2種類混ぜ合わせる方法です。
その他に、性格の異なるコーヒー豆を、3種類~5種類混ぜ合わせる方法や、ブラジルやコロンビアなど、常に安定的に入荷できるコーヒー豆をベースにして、他の銘柄コーヒー豆をブレンドする方法などがあります。
なお、ブレンドの配合において、モカコーヒーやロブスターコーヒー(orマンデリンコーヒー)は、調味料のような働きをすることもあります。
代表的なブレンド例を、(財)科学技術教育協会発行の『コーヒーの科学』から、下記のとおり転載させていただきました。
≪酸味のあるブレンド≫
コロンビア30%、ブラジル30%、グアテマラ20%、モカ2ふ0%
≪苦味のあるブレンド≫
コロンビア30%、ブラジル30%、キリマンジャロ20%、ロブスタ20%
≪コクのあるブレンド≫
コロンビア40%、ブラジル20%、グアテマラ20%、マンデリン20%
≪一般的なブレンド≫
コロンビア40%、ブラジル30%、モカ20%、ロブスタ10%
以上、昭和の時代のデータですから、あくまで参考です。
コーヒー豆は農産物ですから、収穫される場所、天候、土壌、コーヒーノキの樹齢など、様々な影響を受けています。
また、コーヒー生豆生産国の政情不安、経済不振など、国際的、国内的に、様々な不安材料が存在していると、直接的に、あるいは間接的に、コーヒー豆の品質や価格に影響を及ぼす可能性もあります。
ですから、ブレンドコーヒー豆に使うコーヒー豆銘柄やその比率を一定不変にするのは、まず不可能なのだと思います。
そのような理由から、ブレンドコーヒー豆に使用するコーヒー豆の種類は、なるべく「安定品質」、「安定供給」に限定して、上手に使い分けてブレンド効果をあげるべきだとする考え方があります。
多くの素材からより良いものを選ぶのは容易なのですが、そうではなくて、限られた素材を上手に生かすのがブレンドのあり方だとする考え方が、20世紀後半の日本でのブレンドコーヒーのあり方の基本的な考え方でした。
【注目】筆者(年老いた珈琲豆焙煎屋)は、電子書籍をキンドルでセルフ出版するのに夢中になっています。2023年9月1日現在で、6冊の電子書籍を出版しています。その6冊の電子書籍を全て、アマゾン(キンドル)の販売ページへのリンクで紹介しているのが、下のリンク先ページの記事です。
【電子書籍のPR】
筆者は、只今、キンドルで電子書籍をセルフ出版する事に夢中になっています。
72歳ですから、人生における様々な知識・経験・技術を蓄えて来ています。
特に、コーヒーとコーヒー商売については、相当に豊富な知識・経験・技術を蓄積しています。
それを電子書籍にしてキンドルでセルフ出版して行くつもりで、今のところ、コーヒー豆の焙煎について書いた電子書籍をセルフ出版しています。
2023年9月1日現在、6冊の電子書籍を出版しています。
その中の1冊、「コーヒー豆自家焙煎談義【第1集】」を紹介させて頂きます。