初歩コーヒー豆焙煎の教科書

収穫して精製処理して乾燥させたコーヒー生豆は、水分が除去されて小石のように固形化して堅くなっています。ですから、長い保存期間と輸送期間に耐えることができるわけです。

この石のように固形化して堅くなっているコーヒー豆を利用するには、強い熱作用に依存する必要があります。

熱作用に依存するといっても、煮る・蒸す・炊く・煎ると色々な方法が考えられます。この中でコーヒー豆の利用に向いているのが、「煎る」という方法だったようです。

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焙煎コーヒー豆の煎り具合

コーヒー豆を「煎る」ことを『焙煎』と表現しています。焙煎中のコーヒー豆は、秒単位で変化しています。そして、その変化の度合いによってコーヒーの香味も変化します。

コーヒー豆の種類(例えば、アラビカ種かロブスタ種か)や、そのコーヒー豆のもともと持っている特徴、コーヒーの淹れ方の違いなどによって適切な焙煎度合い(煎り具合)を設定する必要があると言われています。

焙煎度合い(煎り具合)の設定方法として、色々な設定方法が知られています。一番簡単な設定方法は、「浅煎り、中煎り、深煎り」の三段階に分類する方法です。この方法は、焙煎した人の経験と勘に依存する割合の高い分類方法です。

それ以外に、焙煎コーヒー豆の色の明度によって分類する設定方法が知られています。この方法は、経験と勘に依存することによる誤差をできるだけ少なくすることができると言われています。

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焙煎によるコーヒー豆の変化

コーヒー生豆には、10~12%くらいの水分が含まれています。これが焙煎による加熱で2~3%くらいにまで減少します。また、焙煎による加熱でコーヒー豆が1.5~2倍くらいにまで膨張します。

以下は、1988年発行の「コーヒーの科学/財団法人、科学技術教育協会出版部」からの引用です。

中煎りのミディアムで44%、深煎りのイタリアンで70%くらい体積が増えて、コーヒー豆の比重は、生豆の1.16から、中煎りのミディアムで0.74、深煎りのイタリアンで0.94まで減少するというデータがあるようです。

小石のように堅かったコーヒー生豆ですが、焙煎コーヒー豆になると指でつぶせるほどに脆くなります。この変化を、コーヒー豆を3mm圧縮するのに必要な力(kg)で測定すると、生豆で51.8㎏、ミディアムで6.1㎏、イタリアンで1.72gになるというデータもあるようです。

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焙煎進行中のコーヒー豆表面と断面

下の左側の写真は、焙煎中のコーヒー豆表面の写真で、右側の写真は、焙煎中のコーヒー豆断面(内部)の写真です。(コーヒー焙煎の化学と技術の写真を接写しました)

焙煎が進行すると、コーヒー豆表面の亀裂が大きく・深くなって行きます。

コーヒー豆内部では、最初に小さな泡がたくさん出来て、その泡が焙煎の進行とともに成長して行き、フレンチローストくらいになるとほぼ同じ大きさの泡で完全にスポンジ化します。その時の泡の平均直径は0.9mmと言われています。

イタリアンローストになると細胞壁(泡の壁)の破壊が起こり、コーヒーオイルが割れ目を通ってコーヒー豆の表面に押し出されてきます。

以上のことから、焙煎による加熱でコーヒー成分が飴状に溶けて、飴状になったコーヒー成分が熱反応して生じた二酸化炭素ガスや水蒸気、その他の揮発性成分が泡を作っていて、その泡がどんどん成長してスポンジ化を進める結果、焙煎コーヒー豆の膨張と脆化(ぜいか)が起こると考えられています。

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コーヒー焙煎の化学と技術(中林敏郎ほか、弘学出版)

 

焙煎とコーヒー豆の色 

淡い緑色をしているコーヒー生豆が、焙煎の進行とともにうっすらとした黄色から茶褐色へ、さらに黒褐色へと変化して行きます。

焙煎によるコーヒー豆の色の変化は、ショ糖のカラメル化やアミノ酸と還元糖が反応するメイラード反応で生成するメラノイジンによるものだとされています。

これらコーヒー豆焙煎中の褐変反応による褐色色素生成には、コーヒー生豆に含まれているクロロゲン酸が大いに関係していることが知られているので、コーヒー豆焙煎中の褐変反応で生成する褐色色素を、コーヒーメラノイジンと呼ぶこともあります。

コーヒーメラノイジン(褐色色素)は3種類の色素によって作られていて、その前駆体(もとになる化学成分)はショ糖とクロロゲン酸だと考えられています。

コーヒー豆を焙煎すると、コーヒー豆に含まれていたクロロゲン酸が減少して行き、それに反比例するように焙煎中のコーヒー豆の褐色度が増して行きます。

ということで、コーヒー豆焙煎によって生成する褐色色素は、ショ糖が熱分解してカラメル化して、それにクロロゲン酸や他のコーヒー成分が反応して、それらの反応によって生じた幾つもの酸化重合度の異なる新しい物質によって形成されていると考えられています。

 

焙煎とコーヒーの味 

コーヒー生豆に含まれている約300種類の成分(コーヒーの前駆成分)が、焙煎によって約1000種類になると言われています。 この変化によってコーヒーの味も作られていると年老いた珈琲豆焙煎屋は考えています。

「コーヒーの味もまた焙煎から生まれる」と言われています。そのコーヒーの味の中で、酸味と苦味がコーヒーの味を決定する重要な要素だとも言われています。

コーヒーの酸味や苦味は、コーヒー生豆がもともと持っている酸味成分や苦味成分と、コーヒー豆焙煎中にコーヒーの前駆成分から新たに作られる酸味成分や苦味成分によって構成されていると報告されています。

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焙煎とコーヒーの酸味

PH値の大きいロブスタ種のコーヒー豆よりもPH値の小さいアラビカ種のコーヒー豆の方が酸味が強くて、低地で栽培されているコーヒー豆よりも高地で栽培されているコーヒー豆の方が酸味が強いと言われています。

コロンビアやモカやキリマンジャロは酸性豆でブラジルは中性豆と言われることもありますが、それぞれのコーヒー豆に含まれている酸の種類に違いがあるわけでなくて、それぞれのコーヒー豆に含まれている酸の量が微妙に違っているのが原因しています。

コーヒー豆の煎り具合(or煎り方)によって、酸度を変化させることができます。例えば、強く煎ると酸の分解が進んで酸味が減り苦味が増すというように・・・。

コーヒーの酸味については、焙煎による影響が極めて大きいと言われています。

コーヒーの酸味は、クロロゲン酸・リンゴ酸・クエン酸・ギ酸・酢酸その他多くの有機酸で構成されています。これらの有機酸ですが、もともとコーヒー生豆に含まれていた有機酸もあれば、焙煎によって新たに作られる有機酸もあります。

焙煎によって、コーヒー豆に含まれていたクロロゲン酸類の半分近くが分解破壊されると言われています。もちろん、クロロゲン酸類だけでは無くてその他の有機酸にも変化が発生します。また、炭水化物の熱分解の過程で揮発性の酸(例えば酢酸など)が新たに発生します。

コーヒーの酸味は、酢酸・クエン酸などそれぞれに特有の酸味を持つ数多くの酸が集まって作られていると考えられています。

 

焙煎とコーヒーの苦味 

コーヒーの苦味は、コーヒー生豆に含まれているカフェインの他、コーヒー豆焙煎中に生成する苦味物質によって構成されていると考えられています。また、苦味物質の閾値は非常に低くて、少量でも舌に感じるのが苦味の特徴だとされています。

コーヒー豆に比較的多く含まれていて、コーヒーの味覚に様々な影響を与えているのがクロロゲン酸類です。21世紀の現在では、そのクロロゲン酸類に関係する化合物が、コーヒーの苦味の主な部分を作り出していると考えるようになっています。

コーヒーは、酸味・苦味・甘味、時には渋味などが複雑に混じり合った複合的な風味を持っています。そのなかでも、苦味はコーヒーに無くてはならない味の一つで、口の中に残らないさっぱりとしたキレの良い苦味は、コーヒーを一層魅力的な飲み物にしてくれます。

この中煎りコーヒーのほろ苦さ(切れの良い苦味)は、焙煎中に発生するクロロゲン酸の脱水反応(エステル化)で生成するクロロゲン酸ラクトンによって作り出されていると考えられます。

焙煎が進行してコーヒー豆の煎り具合が深くなって来ると、クロロゲン酸ラクトンは減少して、フェニルインダン類が生成されてきます。

このフェニルインダン類が、深煎りコーヒーの苦味の主要成分だと考えられます。

フェニルインダン類は、クロロゲン酸類など焙煎コーヒー豆に酸を供給する成分から、コーヒー豆焙煎中の化学反応によって生成する物質だと理解しています。

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焙煎と香り

コーヒーの香りは、コーヒー生豆の成分が分解したり、分解した成分がお互いに反応しあったりして作られます。

コーヒーの香りは魅力的ですが、焙煎が深くなりすぎると、あるいは、焙煎が強すぎると悪い香り(好まれない香り)が多くなるようです。

コーヒー豆を焙煎することで、コーヒーの香り成分は1000近くになるとも言われています。

そのコーヒーの香り成分ですが、脂肪酸はコーヒーの油脂から、フラン化合物・マントール・有機酸・カルボニル化合物・アルコール化合物などはショ糖から、ある種のフェノール類はクロロゲン酸から作られると考えられています。そして、ピラジンやピリジンなどはタンパク質・トリゴネリンから作られると言われています。

タンパク質・ショ糖・トリゴネリン・クロロゲン酸・油脂などのコーヒーの芳香のもとになっている成分をフレーバープリカーサー(フレーバーの前駆体)と呼ぶこともあります。

このフレーバーの前駆体が、熱分解・縮合などのコーヒー豆焙煎中の化学反応を経て、コーヒーの香気成分に変化して行きます。

 

焙煎と香りの変化

コーヒー豆を焙煎すると、最初は酸性の香りを放ち、その後甘い香りがして、焙煎が進むと焦げ臭へと変わって行きます。

焙煎の初期には、ショ糖などの炭水化物が酢酸やフルフラールを作り出して、その後遅れて、クロロゲン酸やたんぱく質が揮発性物質・香気成分を作り出すと 言われています。時間差が発生する理由は、糖類の分解が早くて、クロロゲン酸やたんぱく質の分解には時間がかかるからだとされています。

トリゴネリンとクロロゲン酸は、分解して焦げ臭と苦味を作り出して、タンパク質や糖分は互いに反応することで上品な甘い香りを発生させて、アミノ酸類は、焙煎コーヒーの匂いの生成に関与する含硫フラン化合物(コーヒーの加熱香気の成分)へと変化すると考えられています。

上記のような焙煎中に発生するコーヒー香り成分の生成や変化には、カラメル化反応、メイラード反応、ストレッカー分解などと呼ばれている複雑な過程をたどる反応が関係しています。

また、焙煎の度合い(煎り具合)によって、香気成分の発生反応に違いが生まれて、その結果として、コーヒーの風味も変化します。

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焙煎のプロセス

昭和の昔、コーヒー豆焙煎のプロセスを理解するためには、手網焙煎を経験するのが一番手っ取り早いと言われたものです。

手網焙煎器にコーヒー生豆を入れて、ガスの炎は終始中火に保ち、15~25センチの高さで手網焙煎器を上下、左右、円運動を組み合わせながら、豆を均一に回転させるように動かします。こうすると、手網焙煎器に入っているコーヒー豆全体に満遍なく熱が回ります。

「はじめチョロチョロ、中パッパ、パチパチなったら徐々にチョロチョロ」が、年老いた珈琲豆焙煎屋が考える焙煎の基本です。

はじめチョロチョロの段階は、「蒸らし」と呼ばれているコーヒー豆から水分を蒸発させる水抜きのプロセスです。

パチパチという破裂音が聞こえてきたら「浅煎り」の段階で、その後、「中煎り」・「中深煎り」・「深煎り」と焙煎が進行して行きます。

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「浅煎り」までの焙煎プロセス

「蒸らし」の段階が終わりに近づくと、微かに煙が立ち、コーヒー豆はまだ黄褐色で青臭い匂いを感じますが、その段階が過ぎるとコーヒー豆の色は茶色に変わってきます。

コーヒー豆内部の気体(水蒸気)の圧力で、繊維の部分がゆるんでコーヒー豆は膨張を開始して、薄皮がはがれて来ます。

煙が立ち上り、芳香が漂ってきて、「パチパチ」という破裂音が聞こえて来る頃には、コーヒー豆の茶色が濃くなっています。この「パチパチ」という破裂音が、1ハゼと呼ばれる1回目の破裂音です。

1回目の破裂音(1ハゼ)が聞こえ始めると『浅煎り』の段階で、年老いた珈琲豆焙煎屋の焙煎プロセスでは、全焙煎時間の65~75%(3分の2~4分の3)くらいをこの段階までで費やします。

コーヒー生豆の時と比べれば、焙煎コーヒー豆の体積は増えていますが重量は約12パーセント減少しています。

 

「中煎り」までの焙煎プロセス

1回目の破裂音(1ハゼ)が一定期間続いた後おさまります。この当たりの段階からは、『中煎り』に入ります。

焙煎中のコーヒー豆は十分な熱量を吸収していて発熱も始まっているので、焙煎が急テンポに進行します。

焙煎の進行具合を調整制御する必要があるので、年老いた珈琲豆焙煎屋の場合、「徐々にチョロチョロ」という焙煎操作で対応しています。

手網焙煎器でコーヒー豆を焙煎している場合は、炎からの高さで調整制御する(遠火にする)のがベストだと思います。

 

「中深煎り~深煎り」までの焙煎プロセス

中煎りの煎り具合(焙煎度合い)が深くなって行くと、焙煎中のコーヒー豆の変化スピードが速くなるので、すぐに濃厚な茶色に変わって来ます。そして、「ピチピチ」というゴマを煎るような音が焙煎中のコーヒー豆から聞こえてきます。これが、2ハゼと呼ばれている2回目の破裂音です。

2ハゼの音とともに焙煎中のコーヒー豆の表面組織に変化が見られ、焙煎中のコーヒー豆が均一に煎りあがっていればよく膨らみます。

年老いた珈琲豆焙煎屋の独断と偏見に基づく焙煎度(煎り具合の目安)では、「ピチピチ」という2ハゼの音が聞こえてくる前後で焙煎を終了すると『中深煎り』、2ハゼの音をしばらく聞いてから焙煎を終了すると『やや深煎り』、その時点からもう少し2ハゼの音を聞いて焙煎を終了すると『深煎り』と区別しています。

焙煎が進行すると、焙煎中のコーヒー豆の表面に油性の艶が出て来て、甘い香りがする焦げ臭が漂い始めますが、年老いた珈琲豆焙煎屋の場合、この段階まで焙煎を進行させることはありません。

この段階まで煎った焙煎コーヒー豆の重量減少率は、約20パーセントだと言われています。

 

フレンチロースト、イタリアンローストまでの焙煎プロセス

普通は、「ピチピチ」という2回目の破裂音(2ハゼ)が小さくなって来る頃までに焙煎を終了します。

さらに煎り続けて2回目の破裂音(2ハゼ)が聞こえなくなってくると、焦げ臭と煤煙が立ち上り、黒くなった焙煎中のコーヒー豆の表面はギラギラした油脂で覆われます。焙煎中のコーヒー豆の表面は炭化して脆くなっています。

この段階が、フレンチローストからイタリアンローストと呼ばれる焙煎度合い(煎り具合)だと考えられます。

年老いた珈琲豆焙煎屋が、これまで体験したことの無い、そして、これからも体験することの無いコーヒー豆の煎り具合(焙煎度合い)です。