旅先の駅の近く、昭和の頃から変わっていないようなたたずまいの喫茶店を見つけた旅人は、コーヒーを飲んで休憩しようと入店します。
その喫茶店は年配の夫婦2人だけで営んでいて、朝の日射しが入ってくる店内は混みあっています。
カウンター席に座って、ホットコーヒーを注文します。マスターがハンドドリップで丁寧にコーヒーを淹れる姿を眺めながら、コーヒーが出来上がるのを待ちます。
しばらくすると、透き通った琥珀色のコーヒーが目の前に出てきます。
旅人は、まず、コーヒーの透き通った琥珀色を目で見て、コーヒーの色を感受(視覚)します。そして、コーヒーカップを持ち上げて、透き通った琥珀色のコーヒーから立ち上る素晴らしい香りを嗅いで、コーヒーの匂いを感受(嗅覚)します。
店内は混み合っていて、店内の騒がしさが耳に入ってくるので、それらの音も感受(聴覚)しています。
旅人は、コーヒーを口に含むと「美味しい」という言葉を発します。そして、飲み終えたら満足げな表情で「ごちそうさん」という言葉を発して、料金を支払って店を出て行きます。
旅人が店を出て行くと、いつものことなのですが、喫茶店のマスターは、旅人が自分の淹れたコーヒーの味をどのように感じたのだろうかと、旅人のコーヒーの味に対する心理を分析します。それが、喫茶店のマスターの楽しみになっています。
ちなみに、ある程度のコーヒー経験を積んでいるなら、コーヒーを「美味しいor不味い」と感じる感覚(コーヒーの味覚)は、嗅覚・触覚・聴覚などが複合することによって生じるはずだと、喫茶店のマスターは考えています。
年配の夫婦2人だけで営む古びた佇まいの喫茶店に来店した旅人は、コーヒーを口に含む直前に、コーヒーの透き通った琥珀色を感受して(視覚)、コーヒーの素晴らしい匂いを感受して(嗅覚)、店内の騒がしさを感受(聴覚)しています。
匂いは鼻で嗅ぐ香りの感受(前鼻腔性嗅覚)で、コーヒーを口に含ん感じる香りは、口の中から鼻に抜けて行く匂いの感受(後鼻腔性嗅覚)です。
鼻で嗅ぐ香りの感受は独立した匂いとして知覚されるわけですが、口に含ん感じる香りの感受は独立した匂いとして知覚されるわけではなくて、風味(or味)として知覚されるタイプの感覚だとされています。
コーヒーを口に含んだ時、舌や口の内側で感じる感覚は、味覚(酸っぱい・苦がい・甘い)だけとは限りません。それにプラスして、圧感や温感などの皮膚感覚もあるわけで、これらの感覚は、コーヒーのテクスチャーの重要な構成要素となっていると、喫茶店のマスターは考えています。
コーヒーを口に含んで飲み込んだ(嚥下/えんげ)後、一時的に止められていた肺の中の空気が勢いよく排出されて、気管や口腔内に残っている匂い物質を後鼻腔経路を辿って匂い受容器に運んで行きます。
このときに感受する匂い(or香り)は、口の中から鼻に抜けて行く匂いの感受(後鼻腔性嗅覚)で、「後味/あと味」と呼ばれている感覚だと思います。
喫茶店のマスターは、この「後味/あと味」と呼ばれている感覚を、コーヒーの味を構成する重要な要素の一つだと考えています。
【参考】コーヒーという飲み物は、お酒と同じで経験の積み重ねが必要な飲み物で、経験を重ねることによって香りや味の好みが変わって行く飲み物です。
だから、嗜好飲料と呼ばれているのだと思います。
下のリンク先ページの記事は、年老いた珈琲豆焙煎屋のブラックコーヒーに関するうんちく記事です。参考になるかどうか、わかりませんが。